脳科学・神経科学とデータサイエンス

最新の神経科学・脳科学の研究やビッグデータの医療への応用を誰にでもわかるように説明していきます。

脳科学と神経科学 ~その二つはどう違うの?~

脳科学者はうさん臭い?似非科学?

このブログのタイトルにも使われる脳科学と神経科学という言葉だが、どのような違いがあるのだろうか?
脳科学といえばテレビの科学・健康バラエティに欠かせない存在になりつつある。
しかし科学者以外でも最近では「脳科学者ってちょっと怪しい・・・」と思う人が多いのではないだろうか?
確かに彼らのほとんど偽者である。*1

2010年2月1日の日経新聞では神経科学学会が「脳科学者」に対してこんなコメントを残しています。

脳は様々な謎を秘め、魅力あふれる対象だ。研究には社会の支援が必要と多くの科学者は感じている。半面、メディアで根拠のはっきりしない話題が流れて「おかしい」と感じつつも、学会は「娯楽情報に目くじらを立てて非難するほどでもないだろう」と黙殺してきた。

最近ようやく、健全な研究推進の妨げになると、問題点を指摘する声が出始めた。代表例は約5200人の研究者で組織する日本神経科学学会で、この1月に研究の倫理的な課題などをまとめた指針を発表。「拡大解釈された情報が社会に広がれば信頼を損ねる」などと注意を促した。


2016年9月ではテレビ出演している中で文句なしに素晴らしい脳科学者と言えるのは伊藤正男教授のみである。 *2 ただ伊藤正男教授も「神経科学者」という冠をつけることが多く、
脳科学という言葉自体にややネガティブな意味を捉えているのかもしれない。*3

「脳科学」という言葉は研究機関にも多く使われている

「脳科学」という言葉自体は日本最高の研究所である理化学研究所 *4 も「理研脳科学研究センター」という名前を冠している。

www.brain.riken.j


また日本脳科学学会という学会もあり学術的に優れた人たちがたくさん属している。

脳科学と神経科学どっちがよく使われている?

Google検索によると神経科学が約350万、脳科学が約280万HITでほとんど差がない。
内容に目を向けてみると脳科学ではlife hack系や「脳科学者~~」といった記述が目立つ、
一方、神経科学では教科書や学会情報などやや固い記述が目立つ
これは一般の印象と大きな違いはないだろう。

英語でもハッキリと使い分けはなされていない

脳科学:Brain Science、神経科学:Neuroscienceと訳されることが多い。*5
Googleの検索結果では圧倒的にNeuroscienceが多い。
1億超に対し107万*6
とはいえ日本と同様にBrain Scienceを冠する有名大学の研究所も多い。
例えばColumbia Univeristyである。*7
特にNeuroscienceと使い分けが丁寧になされているとは一部の例外を除いてない。

Brain Scienceは「脳の物理的な構造に注目する科学」という意味もある

一部の例外とは学術的にBrain Sciencesといった場合は脳の物理的な構造に注目した科学に使うこともある。

例)
脳の大きさは知能に影響をどれほど与えるか?
脳のシワはどのようにして進化の過程で獲得されていったか?
胎児期における小脳形成にかかわる遺伝子の同定

この3つの研究テーマの例はNeuroscienceの中のBrain Scienceという分野に相当する。
日本語の「脳科学」という言葉にはこのような用法はない。

Neuroscienceも全部カバーしきれていない?

Neuroscienceの方が広い意味を指すことがあると紹介したが、全部をカバーしているともいえない時もある。
最近では脳の中の神経細胞以外の細胞も脳機能に大きく関わることが分かってきており、多くの研究結果が発表されている。
厳密にいうとそれはBrain Scienceではあるが、Neuroscienceではない。
なぜなら神経細胞、Neuronには関係がないとも言えるからだ。
もっとも最近では「それも含めて"Neuroscience"と呼ぼうよ」ということになっているが。

しいていうなら・・・脳科学:Brain Sciencesはエキゾチック
神経科学:Neuroscienceはかっちり

このようにざっくりとした使い分けが日本語・英語でなされているように思う。
とはいえ英語ではNeuroscienceが圧倒的に優位であり、エキゾチックさを狙った研究機関名や一部の専門用語として使われているのみである。
日本の脳科学も研究機関に使われる用法は残る一方で、一般大衆向けに気を惹きたい場合に使用され、Brain Scienceという言葉より2倍以上の検索結果が出ているのは驚きである。

将来的には統一してくれた方が使いやすいのだが・・・

*1:以前より研究を実際にしたことある人ってレベルの方がテレビに出てることは確かですが。

*2:彼は教科書にも載る小脳の長期抑制という機構を発見した。英国の王立協会員というの権威あるポジションに就いたこともある。 そこでは車椅子のホーキング博士が同僚だった。

*3:本人に聞いたわけではなく完全な個人の憶測です。

*4:STAP細胞により権威は落ちたとも言われるが全体としては素晴らしい研究が行われている

*5:一方でNeuroscienceとかかれた一般向けの洋書は脳科学という日本語に訳されることも多い

*6:scienceは複数形でも使うのでscience/s両方の結果を合わせた。Brain Scienceは脳科学とは違い二語であるから使われないという理由も考えられる

*7:Columbia Universityは脳科学・神経科学で大変優れた大御所の教授が多い。